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2007年4月21日 (土)

時代の空

1995年12月10日『沖縄タイムス』掲載「随想ーエッセイストー」欄原稿

      
時代の空

 
「あの雲を消して見せましょう。」
 透明感のある夕日で美しく染め上げられた空を指差しながら、その人たちは伝えました。 秋の日に、ぼんやりしたい気分で訪れた海辺です。釣り人もいれば、寄り添う恋人たちや犬を散歩させる人、それぞれに過ごす夕暮時のことです。
 その人達は、少しの緊張とはにかんだ表情で語りかけました。ある力で体の不調な部分の症状を軽くするために勉強をしていると…。そのために協力をしてはもらえないかと…。一人の若い女性は、その団体に参加することで、原因不明の視力低下と歩行困難を克服したという自らの体験を、眩しい程の明るい表情で話しました。私からの矢継ぎ早の質問に、「0だと思いましたか。宗教ではないのです。参加は無料です。」との説明の言葉が選ばれました。
 私達のまわりでは、<宗教>という言葉から離れようとする流れが渦巻いてます。
 <信じること>に向きあう事を戸惑わせる時代になってしまったのでしょうか。<信じるもの>を持つ存在と、持たない存在の間で交わされた言葉の中に、何よりも先に、疑いと非難の気配を読み取ろうと互いの心が動いています。美しい自然の舞台の上での不自然な心の動き。
 人の価値観や生きることのエネルギ-は、その人だけものです。ちっぽけな私の意識などでは捉えられない、それぞれの深淵を隣人には持っていてほしいと思います。何者にも侵すこと出来ない互いの奥深さを、そしてそれに支えられた宗教を尊いと信じられる時を迎えたいと願わずにいられません。質問は非難の言葉ではないことを伝えられぬまま、沈んだ気持ちで彼らの祈りの姿を眺めました。
 傍らでは、釣り人の投げる擬似餌が、大きな弧を描きながら何度も何度も海面に吸いこまれていきます。受け取った案内のチラシを鞄にしまいこみ、どこへともなく消えていった雲の行方を思い見上げた空。夕闇近い彼方から陸に向かって爆音と共に残こされた飛行機雲は、この空からいつまでも消えることはないのでしょうか。生まれては消えていく表情豊かな自然の雲の合間に、黒々とした残像を抱えこんだ空が、私達の見続ける時代の空なのか。
 私の耳元で呪文のように響いた言葉は、いつの間にか表現を変え、別の意味を携えて私の中でささやかれていました。「あの雲を消してください。」

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