書評『まんが偉人伝 沖縄史の五人』
1992年(平成4)年5月19日(火)『沖縄タイムス』「書評」欄掲載
書評『まんが偉人伝 沖縄史の五人』琉球新報社
本書は、17世紀初頭から19世紀後半に活躍した5人(儀間真常、羽地朝秀、程順則、蔡温、宜湾朝保)の政治家の生き方を通して、当時の沖縄の歴史を知る手軽な入門書といえる。
本書の特徴の一つである「漫画」という表現方法を用い歴史を捉える手法は、社会科教育の分野では一応の成果を挙げているといえよう。確かにビジュアル資料の示す情報量は幅が広くインパクトも強い。人々が生き生きとした表情で行動し語りかける。生命ある人間が生きていることが歴史だという基本点が、より実感できるのがうれしい。また読者は、衣食住などの生活習慣、風景や生活空間や士族と平民の階級、中国系の久米村の人々、貿易や留学地の中国や薩摩の様子もたたずまいで認識で「琉球」の文化の独自性を、また現代との時代間の差異を用意に理解することが出来る。
特徴の二つめは、重要な用語の説明、写真資料や年表、参考文献などの補足資料を提示することで読者の理解を深められるよう配慮されている点である。さらに現代の琉球史研究の成果をふまえた巻末の解説は、当時の時代背景や時代が漫画とはまた別の視点でとらえられており特筆に値する。
5人の主人公たちに共通しているのは、日本本土・中国への旅を通して、琉球とは異なる文化・価値観を持った国や人間に影響を受けながら、一人の人間として魂を成熟させている点である。それは「自分」とは異なる「他者」を発見していく過程にほかならない。本書は大正期に伊波普猷、真境名安興が著した「沖縄史の五偉人」と同じ人物を取り上げている。なぜ現代という時代にこの5人なのだろうか。この時代を生きていた精神の在り方が、今の私たちにとって一番近い「他者」の役割を果たすのならば、沖縄の歴史に触れることで私たちは、現代に生きる自分の意識について分析する作業をしていかなければならない。
最後に、この5人にとどめず、想像力の回路を閉ざすことなく、新しい偉人像を自由にしなやかに描き出すための試みとしての第二弾を期待したい。
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