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2007年5月 4日 (金)

書評『雲南農耕文化の起源ー少数民族農耕具の研究ー』

1999(平成8)年7月18日『琉球新報』書評欄掲載
書 評  『雲南農耕文化の起源―少数民族農耕具の研究―』
     尹 紹亭 著    李 湲 訳      上江洲均  監修・解題
      
 「どのように食物を生産するのか」の問いは、その土地に生きる人々の生活技術という、最も重要な「知」の在り方を問う事にほかならない。
   本書は、中国の民族学・農業生態学を専門とする研究者(現在雲南民族博物館勤務)によってまとめられた『雲南物質文化』(雲南教育者出版社)シリーズ『農耕巻上・下』の翻訳本である。決して多いとはいえない中国物質文化・民具研究の、本格的で優れた研究に、中国での出版から三年を待たずに触れることが出来た。
 中国西南部に位置する雲南省は、中国の諸民族(55)の約半数を確認できる少数民族の多い社会である。民族間の農耕文化比較の視点が可能な空間、そして隣接するベトナム・ラオス・ミャンマー等の東南アジアの農耕文化をも俯瞰できる場所でもある。雲南の農耕文化研究は、一地域にとどまらず、中国そして東南アジアの農耕文化理解への示唆を十分に与えてくれる。
  「刀斧、竹木鍬・鉄鍬、犁、耖と耙、播種と灌漑用具、蘿(ざる)・籃(かご)・馬幇・車・船などの運搬具、収穫具、穀倉と臼」の農耕具が取り上げられている。千枚を越える写真、古図・実測図等の挿図で、”モノ”と使用する人との関りを、読み物とは異なる手法で雄弁に説示する。各農具は「構造や形態、構成部品の名称、機能及び使用方法、構造と形態の分類、地理的分布の考察・確定」が明確な資料分析方法で整理される。さらに著者の「考古学・農史学、民族史及び民族学資料に配慮し、各具の歴史的根拠、伝播経路、変遷過程及び発展の傾向を探る」という物質文化の学際的・体系的分析研究への意識的な試みを見る。こうした物質文化と対峙する手法は、学ぶべき点が多い。
  翻訳本の監修・解題は、沖縄をはじめとし、日本、台湾、韓国、中国の民具研究に取り組む上江洲均氏。「南九州から南西日本の民具には雲南の少数民族のものと共通するものが多い」ことを実感として語れる存在は、日本農耕文化と比較する視点を解題に取り込んだ。原著の持つ雲南農耕文化の枠を越え、「日本農耕文化の起源」のテーマを立ち上がらせる重要な成果として、新たな意義や位置づけを本著に加えている。沖縄の農耕文化・農具研究においても必読すべき書といえよう。
       (第一書房   1999年5月18日発行  626頁  定価・1万円)

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