末吉安恭と南方熊楠、そして金城朝永
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私が末吉安恭と南方熊楠の関係に興味を持ったのは、24年前のことだ。社会人になりたての頃で…。
1990年7月から12月の半年間、沖縄地元の新聞紙『沖縄タイムス』の文化面コラム「唐獅子」を担当(13回)した時に「終わりの無い作業」(11月22日掲載)というタイトルで書いた時期だ。以下がその時の文章。
「終わりの無い作業」
人は、多々ある情報をどのように頭の中で整理しているのだろうか。
未熟な判断から別々の整理箱の中に仕舞い込み関連性の薄いと思っていた情報が、時として重いもかけない展開で結びつくことがある。その偶然性が強いほど、刺激的に豊かなイメージが広がる経験は、一つの〈事件〉である。
先日、1945年以前の県外発行雑誌の沖縄関連記事を集めた「沖縄学の萌芽展」が県立図書館で開催された。記事目録を見て気が付いた。
南方熊楠が4編ほど沖縄関係の短い文章を書いている。人類学・民俗学から粘菌観察など幅広い博物学的な知識とその強烈な個性を持つ南方熊楠は、最近見直され、注目されている人物である。
一つは、「出産と蟹」。その中で、沖縄のジャーナリストとして活躍した末吉麦門冬(末吉恭)の〈博覧強記〉を驚き、その考証を「凌駕(りょうが)するもの多し」と評価している。
そのほか『球陽』を読みその内容を事例として紹介した「琉球の鬼餅」、石垣島や与那国の事例に触発されて書かれた「椰子蟹に関する俗信」や方言学、沖縄学研究者・金城朝永の「琉球の猥談」を読み書かれた「一目の虫」、「煉粉を塗る話」などがある。
南方熊楠が小さいながら、〈琉球への視点〉を持っていた事を知り、そのきっかけを与えた末吉麦門冬や金城朝永を新しい側面から捉えられると思うと〈うれしい〉気分である。
ある事柄への情報を持つ事は、一つ一つのパーツを組み立てて完成されるものでもない。
偶然のわくわくする〈事件〉と出会いながら自由に、そしてしなやかな変化を続けていく種類のものである。その整理箱の中を引っかき回したり、時に中身をそこら中に散乱させたままでいたり、懲りもぜす腕組みをして箱の中に並び帰る作業に似ている。それは終わりの無い、けれどスリリングな作業である。
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